この記事に登場する人
井出 昌浩
株式会社社会価値変革研究所 代表
製造業の研究開発職、コンサルティングファームのシニアパートナーを経て、大手ITベンダーに参画。同社コンサルティング部門の部門長として数々のDXを推進。
専門領域はDX、人材育成、要求工学。
デジタル活用に関する国際会議での講演に加え、経済産業省「DX加速に向けた検討会WG1」委員をはじめとして公的機関のDX推進にも関与。
現在は、信州大学特任教授、宇都宮市CDXO補佐官として地域社会のDXを推進している。
和田 一洋
株式会社GxP CEO
GxP Technologies India 取締役
大手SIerで部品メーカー顧客中心に経験を積んだ後、当社に入社し、ITアーキテクトとして数々の案件に参画。その後、B2B SaaS企業でAI・IoTを活用した建設・医療向けDXプラットフォームおよび新規SaaSの企画・開発マネジメントに従事。2022年に当社へ復帰し、エンタープライズ顧客のDX支援を推進。2025年9月、事業子会社である株式会社GxPの代表取締役社長に就任。2026年4月、インド子会社GxP Technologies Indiaの取締役に就任。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を、教科書の言葉としてではなく、今まさに社会や企業で実際に何が起きているのかとして学ぶ。── 信州大学大学院学生向けに実施された集中講義「実践デジタル特論」は、そんな狙いを掲げた講義です。『AI・データ・DXが現場でどのように実装されているのかを、企業や行政のリアルな事例とワークショップを通じて学び、情報工学を専門としない学生にも、どの分野に進んでも役立つ"デジタルを見る目"を養う』という命題の元、本講義の初日の2026年8月4日に、GxPグループから2名が教壇に立ちました。
一人は、講座全体を設計し、初日も複数のコマを担った株式会社 社会価値変革研究所(以下、VXI)代表 井出昌浩(以下、井出さん)です。VXIの代表を務めながらも、信州大学の特任教授をはじめ複数の教育機関で教鞭をとり、宇都宮市のCDXO補佐官も務めるなど、教育や地域の現場でデジタルの実装に携わってきました。VXIをはじめとしたGxPグループは、事業としてのDX支援にとどまらず、教育・研究の現場との連携、すなわち産学連携にも力を入れています。今回の講義も、その取り組みの一つに位置づけられるものです。
もう一人は、株式会社GxP 代表の和田 一洋(以下、和田さん)です。学生時代は京都大学・大学院にて生物学を専攻し、社会人となりエンジニアやプロダクトマネージャーとして開発の現場を歩みを重ねてきました。そして当社グループ事業会社での経験も経て、現在はGxPの代表を務めています。
今回は、信州大学大学院にて行われた「実践デジタル特論」の講義の様子をお伝えしつつ、当社グループが現場での仕事を通じて学び、そして確信をもって大事にしている「DXで本当に変わるのは、システムではなく"人"である」という観点を、どのように学生の皆さんへお伝えをしたか、お届けします。
DXは「定義」ではなく「何が変わったか」で捉える(講師:井出)
井出さんがまず解こうとしたのは、「そもそもDXとは何か」という問いでした。ただし定義を暗記させるのではありません。「定義よりも、何が変わったのか」ということでした。
世の中の言葉の流行ではなく、社会・産業・現場で実際に起きた変化から捉え直す── それが講義を貫くスタンスでした。そのうえで、なぜ現在あらゆる業界でDXが求められているのか、学生や技術者・研究者は、それとどう関わっていくのかを問いかけます。
講義を通じて井出さんが強調したのが、企業のDXに欠かせない「具体と抽象を行き来する」考え方です。目の前の具体的な出来事から、その背後にある本質的な課題を抽象化して捉える。今度はそれを、実際に動く具体的な打ち手へと落とし込んでいく。抽象度が高すぎれば現場では使えず、具体に埋もれれば応用が効きません。この二つを往復する力こそが、DXを前に進めるのだと説きました。

そして、DXに向き合ううえで欠かせないマインドセットを挙げました。
挙げられた項目は合計5つありますが、いずれも、現状に留まらず自ら新しい価値を生み出していくための姿勢として触れられました。こうした成長マインドセットを持ち、自らを律しながらチームをリードすることが、DXを動かす人には必要だと井出さんは語りました。
見方、思考、そして行動。
いずれも技術そのものではなく、DXに向き合う"人"の側の話です。どれだけ優れたツールやシステムも、それを使う人の視座と姿勢があってはじめて力を発揮します。DXの出発点は、技術ではなく人にある。井出さんのコマは、そのことを一貫して伝えるものでした。

DXを進める現場で何よりも大事にしている、"人"が変わるということ(講師:和田)
和田さんは、自身のバックグラウンドをメインとした自己紹介スライドから講義を始めました。学生時代の専攻でもある生物学、切っても切っても再生する生き物、プラナリアの写真を用いた自己紹介でした。「切断されても脳を再生する仕組みを持つ生物を研究していた人物が、DX企業の代表として教壇に立っている」・・・情報系の出身ではない、という意外性が、学生との距離をより縮めていたように思います。
井出さんが講座全体で問いを立てたとすれば、和田さんはそれをある実際の現場で起きているストーリで裏づけます。
日本のエンタープライズ企業において、IT、ソフトウェアソリューションは本業の傍らで動くもの、いわば「おまけ」でしかなかった時代から、今では競争原理が変わり、各社が自社の製品や商品を売って終わりの「モノ売り」とするのではなく、現場の効率化や安全性向上そのものを提供する「コト売り」へ変換されました。
時には機器をネットワークにつなぎ、商品に関する情報をデータ資産として扱い、ソフトウェアで価値を生む方向へと、競争の軸が動いています。

そこでGxPグループが取っているのが、「出島型アプローチ」です。これは、顧客と一緒に小さな変革を起こし続ける独自のアプローチとして、GxPグループで用いられています。
そういった取り組みが続き、ひとつの取り組みとしては“顧客と一緒に会社を作る”という関わり方も持つことができました。顧客の内側に踏み込みすぎず、外側から眺めるのでもない。両者の間に共同の場をつくり、顧客と変革を共にしています。
「DXの成果は、システムではなく"人の行動と気持ちの変化"だ」
和田さんがこの現場から掴んだのは、その一点でした。
導入を粘り強く重ね、現場の声に応え続けるうちに、いつしか顧客の営業担当者自身が、業務体験の変化を自分の言葉で語り始め、最終的には、システムが動いたのではなく、人が変わったことにより、企業のDXが推進した様子を、講義を通じて学生の皆さんへ届けました。
学生ワーク:「誰の1日を、どう変えたいか」
講義はもちろん一方的なレクチャーだけではなく、学生主体のワークも用いられました。そこで、和田さんは学生に、あるテーマを投げかけました。
“自分がよく知っている「働く人」を一人選んでください。その人の1日の仕事を、具体的に想像して、デジタルやAIで「増える仕事」と「減る仕事」を書き出し、最後に「誰が、どう嬉しいか」を一言でまとめてください。両親でも、バイト先の店長でも、コンビニやスキー場のスタッフでもかまいません。コツは「その人が朝から夕方まで、何に時間を使っているか」を思い浮かべることです。”
個人で考え、ペアで共有し、数組が発表する。技術から入るのではなく、人の1日と、その人の“嬉しい”から発想する。価値起点で考えるとはどういうことかを、学生は自分の手で体験しました。
AIと、次世代の話
事例と体験に続いて、社会においての「これから」にも視線を移しました。
この1年で、AIの役割は変わりました。人の作業を補助する「副操縦士(Copilot)」から、自律的にタスクを遂行し、人は判断と品質確認に回る「実行者(Driver)」へ。実際、多くの企業がAIを導入し、資料作成やメールの下書き、調べものといった一人ひとりの仕事は、確かに楽になっています。
しかし、仕事のやり方や意思決定そのものは、まだほとんど変わらず、個人の作業は効率化されても、現場の業務のかたちは、依然としてこれまでのままな現状は大変多いです。
「だからこそ、本当に変わるのは、これから。これからが面白いんです。」
かつて優秀なアシスタントを持てたのは一部の人や大企業だけでしたが、これからは誰もが自分のAIを持ち、自分で育てられる。研究の文献調査も、バイトのシフト表づくりも、日本語で頼むだけで動くものができる時代になりました。
「変わるのはこれから。その主役は、皆さんの世代です」というメッセージは、和田さんの実体験が裏づけとなり、まっすぐ学生に届いたと思います。

学生の問い:AIに頼るほど、考える力は落ちていないか
講義の終盤、一人の学生から、ある問いが投げかけられました。
「効率化やアイデア出しのためにAIを使っている。正直、自分でやるよりAIに任せたほうが、速いし質も高い。けれど使い続けるうちに、もしAIがなくなったら、自分の考える力はむしろ落ちているのではないかと感じる。これからAIがますます普及していくなかで、どう向き合えばいいのか?」──そんな問いでした。
和田さんの答えは、「わからない、というのが正直なところです」という率直な思いから始まりました。誰も正解を持っていない問いに、まず正直であること。そのうえで、さらに続けました。

「AIを使おうが使うまいが、外に出したアウトプットは、自分のアウトプットです。自分のブランドであり、自分のものとして残る。人に伝えるときも、それは自分の発言として残ります。だから最後は、「自分から出ていくもの」として、その方向性に責任を持てるかどうか。そこが大事なのだと言います。
AIが出したものを、そのまま自分のものとして出してしまう人もいます。でも、それはとても残念に思います。「そうなるなら、自分でAIに問います」となってしまいますから。
加えて、今のAIは、自分から能動的にコミュニケーションを取ったり、誰かと協働したりはできないですよね。なのでそこを逆手に取って、自分から指示を出し、人との関係性を築き、経験や体験を重ねていく。それこそが、AIには代えられない自分のトラックレコードになっていく──そう捉えることが重要なのではないかと思います。」
さらに、井出さんの回答も続きました。
「AIを使ううえで大事なのは、「何をしてほしいか」を自分の言葉で言えることです。そして、文脈や背景をきちんと渡すこと。抽象的な問いからは、抽象的な答えしか返ってきません。
人は、正解を言えば動くというわけではありませんよね。
人を変えたり、動かしたりするには、まだまだこれからも人の力が必要ですよ。」

学生の方からの質問、そしてその答えに、「DXで一番変わるのは"人"」というこの日の主題がそのまま重なる言葉だったな、と感じます。
好奇心を、行動に!
初日を通してGxPの二人が伝えたことは、突き詰めればシンプルでした。
DXの成果は、システムではなく「人の行動と気持ちの変化」に表れる。だから、技術から考えるのではなく、「誰の1日を、どう変えたいか」から考える。そういった視点から得た発想を、次は自分たちのアクションに変換していく。
これは、GxPグループが日々の顧客支援で大切にしている姿勢そのものです。
私たちは各業界のリーディングカンパニーに伴走し、顧客自身が自走できるDX組織をつくることを目指しています。新しいシステムを納めて終わりではなく、現場の一人ひとりの行動や気持ちが変わり、組織として動き出すところまでを見届ける。技術やツールはそのための手段であり、変革の中心はいつも"人"だと考えているからです。
当社グループにおいて、実務を経験しているメンバーが実際の教壇に立つ理由のひとつは、現場でしか掴めないリアルを、次の世代へ手渡すためです。GxPグループにとってこうした産学連携の場は、DX人材の育成という事業そのものと地続きにあります。
今後も、こうした活動を通じて、顧客、そして社会全体の変革を実践・実現してまいります。
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